若年層に強い自動車保険の話
そしてこの悲願は80年代にようやく成就しょうとしていた。
その日標に達するための手段として多用されたのが、先のエクイティ・ファイナンスである。
株は時価で売られるが、配当は額面をもとに支払われるため、これによって企業は低利の資金を得ることができた。
が、それとともに株価の形成は、以前の額面割当て時代と異なり、利回り採算からは離れていった。
株式配当が多いか少ないかで株価が形成される時代ではなくなったのである。
この経緯は、日本の企業が資本自由化対策として「株式持ち合い」を進めた結果、当面の配当収入にお互いに関心を持たない「株主」が増加していったことと裏腹の関係にあるだろう。
このようにして80年代を通じ、配当利回りの低下が、持ち合い比率の上昇と並行して進むことになった。
株というものを直接の配当利回りから離れて市場で買うには、投資家は常にキャピタル・ゲインを見込んでいなくてはならない。
そのために常に右肩上がりの市況が持ち合いによって維持される。
ここに日本の高株価のカギがあった。
逆にもし下落に転じた場合、誰もが配当には期待していないため、株価の低落には歯止めがかからなくなる危険性を内包していたが、現実には、こうした危険性が顕在化することはなかった。
株価は70年代以降、上昇基調を維持、しかし、80年代末のバブル期になると、エクイティ・ファイナンスによる低利の資金調達もじつは限界を超えていたようである。
製造業企業の株式発行は、80年代の前半には年間8000億円程度だったものが、その後半、大きく増加し、89年には5兆円にも及んだ。
同時に社債の発行も増大したが、その大部分が転換社債、新株引受権付き社債(ワランく倭)といった株式類似のもので、こうしたエクイティ・ファイナンスにより、株式供給がこの間に膨大にふくらんだ。
こうした日本企業の財務行動を、バブルの絶頂期である87~89年の三年間について、アメリカ製造業企業のそれと比較してみよう。
日本企業のこの3年間の株式・社債発行額は1500億ドルでアメリカと同規模であったが、設備投資から減価償却を控除した純投資としてはわずか320億ドルで、先の1500億ドルは、これに対しいかにも大きい。
他方で借入金返済に507億ドル回っているが、残りは手元流動性となり、特金、ファントラを通じた「財テク」にも回ったであろう。
アメリカの場合は、同じ株式・社債発行額に対して純投資が1000億ドルある。
また、アメリカの場合は、株式・社債の発行と借入金の増額がほぼ平均して行われており、日本のように前者に極端にシフトしていることはない。
株による資金調達を主力とし、さらにエクイティ・ファイナンスへのシフトによって、80年代、日本企業は資金調達コストを平均2%台で推移させており、5~8%のアメリカ企業との間に大きな格差を生じさせている。
これが、生産要素価格の内外同一性をも「公正な競争」のスタート・ラインに置こうとするアメリカ側に、いわばつけいる隙を与えていた。
アメリカの半導体業界などは、資本コストの格差が産業の競争力を左右するという点を指摘して、だから日本とは公正な競争ができない、といった主張を展開してきた。
あまりに企業側の利益に偏った資金調達のあり方が、アメリカに必要以上の警戒感を抱かせてしまったようである。
だが、対米格差そのものよりも、日本側としては、低い調達コストが合理的で堅固な基礎に基づいているのかどうかが、じつは大問題であった。
たとえばBIS規制をクリアすべく、エクイティ・ファイナンスによって中央突破をはかった銀行の場合、それはどうだったか。
株式市場の水準を示す指標としては、値動きの激しい日経平均に対して、対象銘柄の株式総数まで考慮に入れたものがより実態に近いとされているが、金融・保険は二割以上の比重を占める。
銀行株の本当の実力をみるには、この動きが一つの指標となるだろう。
いま、その動きをふり返ってみると、八七年四月にピークをつけた後、ブラック・マンデーの波及による下落は意外に深く、そのボトムから八七年のピーク水準に回復したのが、バブル崩壊前夜の89年末であった。
この指標を見る限り、バブル下にあっても、銀行株の動きはむしろ鈍かった。
邦銀は、時価発行増資による自己資本比率の早急な積み上げを目指して、持ち合いの手法で株価をつり上げていたが、その成果といっても、右のようなものだったのである。
87~89年の三年間に都市銀行が行った時価発行増資額は、それでも約6兆円にも達し、BIS規制のもとで、これによって約80兆円の貸し出し余力が生まれたことになる。
ところが、この時期、大手都銀の株価収益率のピークは、250倍にも達していた。
全銘柄の株価収益率の平均が約80倍というバブル期にあって、銀行株はその3倍も割高だった。
このことは銀行の営業利益がいかに薄かったかを物語るものといえよう。
銀行株は極端な例であったにせよ、多くのエクイティ・ファイナンスが、利益率その他の指標から見て根拠を失っていた。
日米構造協議でアメリカは、そこを突いてきたのである。
地価と競争力土地についてはどうだったか。
大都市圏の地価は、80年代半ばまで、名目GNPをやや上回る程度の上昇だった。
ところが85年以降、株式にやや遅れて90年にピークをつけるまで、この趨勢を大きく突き破る急騰を続けた。
この間の土地の累積キャピタル・ゲインは、株式のそれを大きく上回る1420兆円、90年のGNPの3.3倍に達する規模となっている。
このように、株式と連動した地価の上昇も、アメリカから見れば問題があるように思われた。
80年代末の時点で、日本の土地は国富総額の約70%を占めるにいたったが、アメリカでは約25%にすぎない。
土地に対する感覚は大陸国家のアメリカと島国の日本では当然異なり、こうした資産構成の差は基本的には国内問題である。
ところが、日本の土地資産額(90年末で2400兆円、国民経済計算による推計値)がアメリカ全土の土地資産額の約四倍に相当するということになると、アメリカとしてもこれを見過ごすことはできなかった。
土地の含み益もまた、企業の競争力にからんでくる。
日本では株式と同様、土地についても法人については相続税がなく、個人に対し法人の土地保有が進みやすい。
また社歴の古い企業ほど大きな土地の評価益を擁しており、しかもこれが80年代を通じて急激に膨張した。
かつては日米間で企業の競争力をめぐる論争が起きると、日本側は、短期の業績に縛られたアメリカ企業の経営の欠陥をついておればよかった。
ところが、80年代末にもなると、アメリカの短期業績主義への批判は、ただちに日本企業が擁する種々の経営上の「クッション」に対する批判となって返ってくるようになった。
地価の高騰もまた、アメリカ企業からみれば、彼らの主張する「平等な競争条件」に反するわけである。
89年には日本異質論者の一人として知られるジェームズ・ファローズが、具体的方法は明らかにしなかったが、「日本封じ込め」を主張していた。
冷戦構造の崩壊により、日本は「悪の帝国」ソ連に代わる経済的脅威として認識されるようになった。
この言い古された論評の当否はともかく、ワシントン、それも議会というより、財務省において、日本のバブルを「諸悪の根源」とする判断が形成されていったことを、種々の状況証拠は示しているようである。
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